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September 12, 2010

どうやったら証明できるか

近頃、僕の周囲で妙なことが起こっている。

僕自身は全く覚えが無いのに、ある場所で僕の姿を見かけたという人がいたり、
僕自身はそんなことをした覚えが無いのに、それをやったことになっていたり。

単に相手が僕ではない誰かを僕だと勘違いをしているのか。
そうでなければ、僕自身の物忘れが激しくなってきているのか。

最初はその程度の認識だった。些細なことと思っていた。

しかし、最近はそう楽観できない事態になってきた。


「お、瀬名くん。いやぁ、驚いたよ」

同僚の矢島だ。

「何のことだい」

「きみもやっぱり入るんだね。ひとりで、ああいうところ」

「ああいう?」

「とぼけても無駄だよ。昨日見たんだから、きみがキャバクラへ…」

「えっ」

まただ。僕はそんなところへ入った覚えはない。


「あ、瀬名さん」

「や、やぁ?」

事務の小林さん…。また嫌な予感がする。

「これですけど、やっぱり無理です」

と、小林さんがさし出してきたのはコンサートの予約チケットだった。

「お誘いは嬉しいんですが、その日別の予定が…」

どうやら、僕が彼女をそのコンサートに誘ったような感じなのだが、
当の僕には何のことだか全くわからない。

「お返ししておきますね。瀬名さんには奥さんがいるでしょ」

何だか、僕が不倫でもしようとして、いきなり振られたような感じだ。
僕がそういう話まで持って行ってたということだろうか。

ひょっとして、僕は何か二重人格にでもなるような病気か。
こんなことがここ数日続いていて、実際、頭がおかしくなりそうだ。


僕はその日の仕事をいつもより早く終え、家路を急いだ。


「ただいま」

「あら、あなた?」

家で僕を出迎えた妻は、妙に驚いた様子だ。

「え、と、いつお出かけになったの?」

「おでかけ?僕は今仕事から帰って来たんだろ」

妻は何だか納得がいかない様子。

と、次の瞬間、その理由が判明した。

「誰だい?」

家の奥から出てきたその人は、なんと“僕”だった。

「どういうこと…」

妻はその場にへたりこんだ。

「き、きみは…」

僕と、もうひとりの“僕”は、同じ台詞を吐いた。

そして、最近の妙な出来事の理由が判明した。こいつだ!

「僕のニセモノ!」

僕はそう叫んだ。

「何だって。ニセモノはきみの方じゃないのか?」

「何!」

妻は絶句している。発する言葉が見つからないのだろう。

当然だろう。

僕も“僕”が目の前にいるという事実を受け止めるので精一杯だが、
とにかく相手を否定しなければならない。

「近頃、僕のフリをして好き勝手しているようだが…」

と僕がいうと、その“僕”は

「それはこちらの台詞だ!どうも最近妙なことが多いと思っていたんだ」

とやり返してくる。

「…ねぇ、……どっちが本当のあなたなの?」

妻が怯えた様子で、何とかその言葉をしぼり出した。

もちろん僕に決まっている!
しかしそのことをどう証明したらいいのか。

「そうだ、きみの誕生日を知っているよ」

と僕がいうと、

「僕だって知ってるよ。7月7日、七夕だ」

先に言われてしまった。しかし、何でこいつ知っているんだ。
…いや、どこかで調べれば簡単にわかることだ。
何しろ全くあやしまれずに人の家に上がりこんでいるくらいだ。

「そうだ、免許証はどうだ」

とやって、僕は財布から免許証をだして見せる。
ところが、相手も全く同じものを出してきたのだ。

免許証だけではない。

社員証や保険証、クレジットカードから携帯電話に至るまで、
僕が僕であることを証明するものを、全て相手も持っていた。

これには、僕も、その“僕”も驚くしかなかった。

これは何かの罠か?誰かに仕組まれたことなのか?
しかし、一体何のために……

「というより、きみにはどっちが本当の僕かわからないのか」

そういったのは、相手の“僕”のだった。
妻は首を横に振る。どうやら本当に全くわからないらしい。


しばらくの沈黙の後、妻が提案した。

「ねぇ、こうしたらどうかしら………」


            *   *   *


さて、どうやったら本当の「僕」がわかるでしょう。

もし、自分(と全く同じ人物)が目の前に現れたとき、
果たしてそれはニセモノといえるかどうか。

或いは、ニセモノは自分の方かもしれない。

藤子F異色短編の中に「ぼくの悪行」という作品があって、
それはパラレルワールドに住む自分が
実世界(むこうにしてみればこちらがパラレルワールド)へ
やってきて、いろいろやりたい放題やるという内容で
上の話の状況もそれにちょっと似てるんだけど。

自分のコピーのような存在が実在したとき、
どちらがオリジナルでどちらがコピーかを解決する方法って、
実は全くないかもしれない、と、ちょっと思ったのでした。

上の状況で、妻は何と提案したんでしょう。

おわかりの方は、ご覧の宛先かメールアドレスまで
ハガキ、またはEメールで回答をお寄せください。(嘘


実際、“自分”って何でしょうかね。


久々に哲学脳。

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Comments

答え:携帯に電話する
自分のアイデンティティーが自分の外部にある時代って・・・
仮に両方の携帯で着信出来たら、「クローン携帯発見」とDoCoMo(au?,sb?)に持って行く

Posted by: はる | September 13, 2010 at 01:09 PM

携帯電話すごいっすね!
これが答え!?ダブルでかかったら、ビビる。

一応自分の答え。
自分に起こっている、妙な事柄を指摘してみる。
【こっちが相手の記憶がないなら、相手もこっちの記憶はないのではないか?という想定のもと】
(キャバクラには行っていないのに行ったとか・・・。)
(同僚の女性を、浮気前提で誘ってたとか・・・。)
(仕事に行ったはずなのに、家にいるとか・・・。)
とりあえず、ニセモノはやりたい放題やってるから、行動は破綻してると思うんだけどなぁ。

Posted by: RORO | September 13, 2010 at 01:52 PM

リアルに考えるなら、はるさんやROROさんのが正解でしょうね。catface

携帯番号はユニークなはず。

ところで、ROROさんの予想は、きっとSF作家的には「してやったり」なものだったりします。おそらく、主人公(物語の主観)が本物だという前提に立った見方だと思いますが、実は、主人公の方がコピーだった、という結末も書けたりします。というか、どちらもコピーかもしれない。

とにかく、自分が自分であるということを、当の自分ですら明確に証明することができないということ。携帯電話のような裏技があれば良いのですが、何も手がかりのない裸状態でお互いを「偽者だ」ということは、意外と不毛なものだったりします。

Posted by: 月影 | September 14, 2010 at 12:47 AM

くああああ。奥さんなんて言ったんですか?(ハァハァ

Posted by: RORO | September 14, 2010 at 10:08 AM

「不毛」はその通りでしょう
コピーの作り方が明かされていないままでは、その方法は「何でもアリ」の可能性があります。すると「本物」の定義が出来なくなります。
何故ならば、仮に本物の定義を何かに定めた場合、「実はその条件すらも複製する方法でコピーを作ったんだ」と言われれば、その時点で本物は分からなくなってしまいます。
さらに可能性のバリエーションを考えれば両方「本物」の可能性もありますね、本物の定義次第ですが。
この話で藤子氏はキャバクラに行った人物を偽物と匂わせているのでこれを偽物の定義に使えるかもしれませんが、目の前の自分がこれを否定すればまだ本物の可能性が残ります、第三の自分が居ても良いので。
ということで「解無し」に1票
携帯はあらかじめSIMカードを差し替えておくことも出来ますし、クローン携帯を作れる可能性もあります

Posted by: はる | September 15, 2010 at 01:26 AM

ちなみに、上のフィクションは藤子F作ではなく、
"藤子F風"に私の思いつきを書いたものです。
そしてその結末は、私も考えてないです。^^;

ここは、実は自分でも"自分"であることを証明できない、
ということを書いてみた感じです。

実際、自分が本人であるということを認めているのは、
自分以外の人、他人なんですよね。
で、その認識も確かなものではないんだよなぁ、と。

それが揺らぐ状況として、同一人物が2人いたらどうなる?
という仮定が上の例で、ここはそこまでの話でした。

で、物語としてこれに結末をつけないといけない、となると、
どうすれば面白くなる?という観点になると思いますが、
実は生別れの一卵性双生児だったとか、クローン人間だったとか、
異星人の仕業だったとか、精巧なコピーロボットだったとか。

例えば、クローンの場合で考えると、
散々主人公が本人であることを証明しようと奔走した挙句、
実は主人公の方がコピーだった!とすればそこそこ衝撃的とか。
(そういう話って既にありそう)

ただ、個人的には、そういうオチをつけちゃうと
途端に話がチャチになる気がするんですよね。
ありがち過ぎたり、逆に現実離れし過ぎてたりで。

なので、あえて結末を書かないで続きを読者に想像させる
というのも、ひとつの終わらせ方だったり。(逃げの一手です)

ということで、「解なし」が正解。wink

Posted by: 月影 | September 15, 2010 at 01:22 PM

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